この一冊

 

『BYE-BYE FOGGY DAY』バイバイ・フォギーデイ(2012年4月講談社刊)

英語を見てもカタカナで読んでも意味が分からないこの本を手にしたのは、熊谷達也さんの著作だったからです。

『ウエンカムイの爪』(小説すばる新人賞)、『漂泊の牙』(新田次郎文学賞)、『邂逅の森』(山本周五郎賞・直木賞)など北日本を舞台にヒグマ、オオカミ、マタギなどの小説群が有名です。『荒蝦夷』では大和朝廷に立ち向かう蝦夷を描いています。

そんな彼が今回題材としたのが憲法九条国民投票。主人公は女子生徒会長とロックバンドギター奏者の高校生という胸がわくわくする青春小説でもあります。

憲法九条改正案が国会を通過し、高校三年生を含めた18歳以上の国民が改正案に賛成か反対かを問われる国民投票の前後が舞台設定となっています。

美少女生徒会長はギター奏者の彼の一言から総理大臣になって日本を変えたいと将来を語ります。高校三年生の彼女は文化祭を「憲法を考える」イベントにし、ネットで全国の高校生が模擬投票するという現代風の高校生運動を巻き起こします。

ノンポリの彼は「賛成か?反対か?」を生徒会執行部メンバーと共に彼女に引っ張られながら「反対」の意思表示をしますが…。

小説では憲法九条第一項の戦争と武力行使放棄規定と第二項の戦力不保持交戦権否認規定に対する改正案を第二項以下に「自衛軍保持」多国籍軍「活動参加」としています。まさに近々起こりえる国民投票を題材としつつ、ネット時代の若者が政治にどう関わっていくのかを描いており、40~50年前の自分とつい比較してしまいます。

戦後九条をめぐっては「自衛権はある」「集団的自衛権が否定されているわけではない」など定義が「定まらない」まるで霞がかかったような解釈状況を前に、高校生が真剣に討論していきます。

というわけで、文化祭の主題歌「バイバイ・フォギーデイ」はもやもやした「霧だらけの日々に、今日でさようなら」です。

彼女たちの試みにより国民世論は反対に傾きますが、海上保安庁に勤務する彼の父が投票直前に「不審船による沈没で死亡」と報道され、国民世論は二転三転します。その結果は本を読んでからのお楽しみですね。

九条改悪をどう捉えるのか。若者はどう立ち上がるのか。ぜひ読んでいただきたい一冊です。本書は2011年2月号から2012年1月号と、大震災の直前から一年間かけて「小説現代」で発表されています。   潤

 

 

書名 『風の陣』  著者 高橋克彦  出版社 PHP研究所

穏やかに暮らしていた東北の民は大和朝廷側から蝦夷=「えみし」と呼ばれ、天皇は「獣だ」と断じていた。749年黄金が発見された陸奥の国に侵攻する朝廷軍、「俘囚」となって屈するか、誇りを持って抗うか、苦悩する蝦夷たちがついに決起するまでを全5巻にわたって描く。以前「仙台遷都などアホなことを考えてる(中略)東北は熊襲(くまそ)の産地。文化的程度も極めて低い」と発言した社長がいたが、権力者は常に利潤を求め地方をないがしろにしてきた。今、首都圏の電力を賄うための原発を受け入れ苦しめられている東北の民を思うほど、平和と誇りを求めて決起した物語を感慨深く読むことができる。

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