松田さんとともに生きた「支える会」の40年

五十嵐仁の転成仁語(2010/4/4)

 元気な姿で高知からやってきました。松田さんです。
でも、車いすに乗って、です。後遺症のために身体の自由がききません。
111人も集まったそうです。昨日の「松田さんとともに歩んだ40年の集い」のことです。

昨日は、地下鉄新宿線の九段下駅で降りました。「集い」の会場は麹町の日本テレビ前ですが、靖国神社から法政大学を通り、外濠公園を歩いて市ヶ谷に抜けようと考えたからです。
このルートは、桜の名所が続きます。せっかく近くに行くわけですから、早めに出かけて桜見物としゃれ込もうというわけです。
春爛漫の風情でした。薄日も射し、桜は満開で、沢山の人でにぎわっていました。

九段下の駅の改札口を出ると、「法政大学」の腕章を着けた人が「武道館」と書いた案内板を持って立っていました。毎年、4月3日は法政大学の入学式で、式典が武道館で行われるからです。
靖国神社を抜けると、そこにも「法政大学」という案内板を持った係員が立っていました。人並みに混ざって、市ヶ谷キャンパスに入ります。
クラブやサークルの勧誘をする学生、新入生とその家族などで、狭いキャンパスはごった返していました。入学式の式典が終わるころの時間だったからです。

希望に満ちた顔、顔、顔。明るいのどかな雰囲気。
回りの桜は満開で、温かい春の日差しが降り注いでいます。冷たい風さえも、爽やかに感じるほどです。
見ていて、涙が出ました。これが本来の大学の姿なのだと……。

約40年前、松田さんも、この同じキャンパスに足を踏み入れたことでしょう。胸一杯に、沢山の希望と期待を抱きながら……。
しかし、それは、暴力によって、無惨にも打ち砕かれてしまいました。彼の仲間や友人の多くも、暴力学生につけねらわれ、ときには暴力をふるわれ、このキャンパスに足を踏み入れることができなかったのです。
ここにいる人々は、約40年前、陰惨で悲惨な現実が存在したことをほとんど知りません。この平和な光景を取り戻すために、汗を流し、ときには血を流しても、暴力と闘いつづけた学生たちがいたということも……。

「集い」は午後2時過ぎに始まりました。松田さんは、現在、高知県南国市の障害者向けの施設で働いており、そこの寮で暮らしているそうです。
高知からは、2人の友人が付き添ってきていました。1人では旅することもままならないのです。
私は、30分ほど話をしました。「『松田さんを支える会』は『民主法政』の象徴であり、ここにおられる皆さんを、私は法政大学の一員として誇りに思う」と……。

あの頃は、本当に酷い大学でした。ほとんど授業には出られず、試験も受けられなかったんです。
あの事件は、忘れられません。一生背負って生きていきます。
「あいつだ!」と叫んで、暴力学生が襲ってきたとき、授業に出ていた学生が取り囲んでくれて、助かりました。
大切な4年間だったけれど、学びの4年間ではなく、闘いの4年間になってしまったのは残念でした。ゲバ棒に追われた青春でした。できれば、取り戻したいと思います。

このような発言が続きました。直接、話をうかがった方もいました。様々な思いがあふれた発言に、胸が熱くなりました。
話を聞いた1人が、こう言ったのです。「ヘルメットの学生が持っていたのは、バーベキューの時に使う長い金串ですよ。あれを見たときには、ゾッとしましたね」
凶器は、ゲバ棒やチェーンだけではなかったのです。狂っていた、としか言いようがありません。

事件は40年もの昔のことになります。しかし、多くの人々は心に深い傷を負い、その傷は今もなお癒えていないようです。
その傷を負わせた人々は、何食わぬ顔をして、普通の生活を送っているのでしょうか。人の一生を狂わせた罪を、少しでも反省しているのでしょうか。
かつて全共闘だった人の全てを敵視し、その主張の全てを否定するつもりはありません。しかし、暴力という手段を肯定しているのか、それを行使した過去を反省しているのかという問いは、一切の妥協なく突きつける必要があると思います。

「集い」に出ていて、ちょっぴり羨ましく思うこともありました。私の場合には、「支える会」も、このような「集い」もないからです。
おそらく、全国どこの大学にも、このような「支える会」の存在や、40年にもわたって活動を継続してきた例はないでしょう。法政大学学生運動の誇るべき「宝」だと思います。
このような「宝」があるからこそ、こうして懐かしい昔の友人にも会えるんじゃないでしょうか。その意味では、5年に一度、このような形で「同窓会」を開けるのも、松田さんのお陰ということになるかもしれませんね。

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